掲載日:2020/07/30  更新:2020/08/13

ドイツで活動する日本人インストラクター

フィットネス業界に生きるビジネスパーソンのこだわりに迫る!
【vol.28 GUEST:山田暁子さん Akiko Yamada】
・ZUMBA®インストラクター
・ZUMBA GOLD®インストラクター
2002年-2012年まで東京・埼玉のフィットネスクラブにて有酸素系、調整系のクラスを指導。2012年ドイツへ移住。2014 年より現地にてフィットネスインストラクターとして活動中。

 全世界的に、新型コロナウイルス感染症の完全収束には至らない昨今ではあるが、各国大打撃を受けた経済活動を再開する動きが活発になっている。日本では、中小企業を下支えするための補助金や、消費行動を促すための給付金等の施策を政府は打ち出しているが、焼け石に水の状況は否めない。世界に目を向けてみると、ドイツは7月から半年間限定で、日本の消費税にあたる付加価値税を19%から16%に引き下げ、国民の消費行動を活性化させようと対策を打ち出した。この背景には、ドイツが2014年から続く財政黒字による余力があったことが大きな要因であるが、ここドイツに8年前に移り住み、現地でフィットネスインストラクターとしての活動を行っている山田暁子さんに、今号のゲストをお願いした。出演打診にあたり彼女は、「私でいいんですか…」と大変恐縮をされていたが、ドイツでの活動状況を日本のフィットネス関係者に紹介し、国外での活動を目指すインストラクター、またはそのきっかけに少しでもなって欲しいという、私からのオーダーを快諾してくれた。そして、当連載では初めて、日本とドイツをオンラインビデオ通話で結び、取材を行った。

 彼女は今、ドイツの南西部に位置するスイスとオーストリアの国境付近、バーデンヴュルテン・ベルク州のマルクドルフ(人口約1万人)と言う街に、旦那様と二人住居を構えている。バーデンヴュルテン・ベルク州の州都はシュトゥットガルトだが、私にとってはサッカーのイメージしかなく、少し前なら岡崎慎司選手、現在は遠藤航選手が所属する設立100年以上の名門クラブを擁する州だが、「ドイツはサッカーが身近なスポーツなので、一度は観戦とは思ってはいますが…」と、彼女にとっては興味の対象にはないようだ(笑)。そんな彼女であるが、まず、なぜドイツに住むことになったのかを伺ってみた。

「2012年に、主人がドイツの現地企業に転職をする事になり、一緒にドイツに移り住むことになりました」
 もともとご主人が日本で勤務されていた会社の取引先が、転職された会社であり、日本向けのプロジェクトマネージャーとして、招き入れられたとのことだ。海外に移り住む場合、日本法人の海外支店への転勤というケースは、私の周囲でも時折耳にするが、完全に他国の現地企業に転職するというのは、ご家族としてもそれなりの勇気と覚悟が必要であっただろう。
「確かに、言葉も文化も全く分からない状態での渡独だったので、最初は戸惑いもありました。しかし、日本で毎日仕事に忙殺されている主人の姿を見ていましたので、ドイツに行ってもっと色々な意味で余裕のある生活をするべきだと思い、これは自然な事なのかと腑に落ちました」
 しかし、渡独してみると、覚悟はしていたもののかなりの苦労もあったという。
「何と言っても、言葉が分からない事からくる孤独感は、耐え難いものでした」

ドイツの母国語は当然のことながらドイツ語となり、日本では大学で専攻しなければ、ほぼ触れる事のない言語である。そこにきて彼女が住む地域では、英語を話せる現地人は若年層が中心となるため、余計孤独感を感じていたようだ。
しかし、彼女はこう加える。
「言葉が分からないとどうにもならないので、一年間語学学校に通いドイツ語を勉強しました」
 今では、日常会話にもほぼ困らず、理不尽な近隣住民と言い争えるくらいまでの語学レベルになったという(笑)。そして、6年前からフィットネスインストラクターとしての活動を再開した。“再開”と書いたが、そもそも彼女は日本で10年間エアロビクスインストラクターとして活動をしていた。渡独により一旦休止することとなったが、語学もマスターした2 014 年に、現地でZUMBA®のライセンスを取得した。現在ではダンススタジオやNPO法人のスポーツクラブ、また、現地の日本人グループに指導を行っているという。「ドイツでは、他国と同じようにZUMBA®が大変人気で、老若男女問わずたくさんの方が参加してくれます」と話す彼女だが、クラスを担当することになった当初は、複雑な思いもあったという。
「やはり私はアジア人ですから、多少なりとも偏見を持たれていたことは、肌身で感じていましたが、人によって感じ方が違って当然なので、気にしないようにしていました」
 中途半端な覚悟でここドイツに移り住んでいる訳ではない彼女は、そのような中でも徐々に自身のポジションを獲得し、周囲のドイツ人から支持されるまでになった。
「最初の頃は色々ありましたが、基本ドイツの方は積極的な意見や行動を受け入れてくれます。そして、人を年齢や性別で判断することなく、正当な評価をしてくれます」
 日本以上に年齢層の高いインストラクターもたくさんいるとの事だが、単純に比較はできず、おそらく実力主義の色が濃い部分も多分にあるのであろう。今では永住権も取得し、第二の祖国ドイツでこれからの人生を歩み進めて行くという彼女だが、ドイツにおけるフィットネス事情を聞いてみた。

「私が住む地域は、大きなフィットネスクラブはなく、小中規模のフィットネスクラブ、またはダンススタジオなどが主流になっています。ただ健康に対する意識は非常に高いので、ウォーキングやジョギング、サイクリングをされている人口は、日本に比べかなり多いという印象です」
また、インストラクターの活動方法ついても聞いてみた。
「日本では、フィットネス指導を専門に行うフリーインストラクターが多く、私もその一人でしたが、この地域ではフィットネス指導専門のフリーインストラクターはほぼいません。レッスン単価が日本に比べ安いというのが大きな理由だと思うのですが、平日は正社員として企業に勤め、平日の夕方以降あるいは土日だけフィットネス指導を行うというスタイルが主流です」
 実は彼女も、フィットネス指導の他に幾つかの仕事やボランティア活動を行っているという。ドイツに限らずヨーロッパは、専業主婦という概念が薄く、家事専門=失業者扱いになるという話も聞いた。この背景には、共働きがし易い環境が日本に比べ整備されており、出産で休職後も、休職前のポジションと待遇で復職できるとのことだ。日本のフィットネスクラブでも、最近では出産後に復職される方も多く見受けられるが、なかなか同じ待遇という訳にはいかないのが現状だろう。最後に今後の生活や活動について聞いてみた。
「ドイツは治安も良いですし、住みやすいので、年金生活になる67歳まではここに住もうと考えています。フィットネスインストラクターとしての活動は、今後ヨガの勉強もして指導できるようにしたいと考えています」
 終始控えめな彼女ではあるが、私から提案をした、日本のインストラクターがヨーロッパで仕事をするための橋渡し役にも興味を示してくれた。8年間完全アウェーの異国で生き抜き、立ち位置を確立しつつある彼女にしか分からない事を、是非とも日本の未来あるインストラクターに伝えて欲しいと思う。いつか、新型コロナへの対策が万全になった暁に…。

【Writing & Photo 丸山寛 Hiroshi Maruyama】
有限会社スポーツゲイト 取締役社長
競技エアロビックで3年連続日本チャンピオンを獲得後、ナショナルスポーツブランドや
大手製薬会社など数社とスポンサード契約を結び、業界内外でフィットネスインストラ
クターとしての活動に力を注ぐ。現在は、数百名のインストラクター、トレーナーを抱
える会社の代表を務める傍ら、複数のフィットネスクラブのアドバイザーとして精力的
な活動を行っている。

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