掲載日:2020年08月14日  更新:2020年09月02日

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大手クラブにおけるアフターコロナのフィットネス③ スタジオにおける課題

営業再開後のクラブ運営では、新たな課題が出てきている。各エリアでの課題と対応について、ルネサンス、オアシス、メガロス3社に取材にご協力いただき、現状を共有いただいた。本記事では、「スタジオにおける課題」について言及していく。

アフターコロナの、大手フィットネスクラブにおける課題と対応③

営業再開後のクラブ運営では、新たな課題が出てきている。各エリアでの課題と対応について、ルネサンス、オアシス、メガロス3社に取材にご協力いただき、現状を共有いただいた。本記事では、「スタジオにおける課題」について言及していく。


■スタジオにおける課題

マスク着用と、運動強度
現在、すべてのクラブで共通した課題となっているのが、マスクの問題である。FIAガイドラインでは、「スタジオプログラムに於いてもマスク着用を徹底する」とされている。マスクをすることの弊害として、熱中症のリスクが高まることや、呼吸が浅くなることにより胸郭の動きが悪くなり、肩甲骨周りの機能低下から、肩こりをはじめとした全身の機能低下がみられることが、多くの運動指導者から指摘されている。

また、FIAガイドラインにある「着用するマスクなどに合わせた運動強度で実施する」ことに沿って、運動強度や運動時間に制限を加えてのプログラム実施となっている。グループエクササイズは、運動効果を得るために必要な強度や時間のエクササイズが楽しく行えることも価値の一つだが、その価値が提供できない状況にある。

また、ガイドラインには「有酸素運動の実施を前提として開発されたマスクの着用を推奨する」と付記されているが、現状こうしたマスクの入手が困難であることから、参加者は通常のマスクでレッスンに参加しているケースがほとんど。インストラクターも、呼吸が確保できるマスクを試行錯誤しながら選んでいる状況にある。

感染予防と、グループエクササイズの体験価値
マスクを着用していても、「過度な大きさ、頻度の声出し」は禁止。さらに、FIAガイドラインで「対面の状況になることを避ける」とあり、対面指導は行わず、背面指導で行われている。さらにインストラクターの位置も決められ、メンバーに近づかず、もちろん「ハイタッチや握手等のスキンシップ」も禁止されている。

インストラクターにとっては、グループエクササイズの体験価値の源泉である、メンバーとのコミュニケーションや、レッスンでの一体感が提供できないだけでなく、参加者の表情や顔色も確認しずらいため、参加者の体調確認もできず、安全確保に不安を感じている指導者も多い。マスク着用によるリスク対応については、オアシスではレッスン中に休憩をこまめにとり、呼吸を整えてもらうようにしている。

ルネサンスでは、1レッスンを最大30分にするとともに、鼻を覆うことについては状況により呼吸確保を優先させている。

メガロスでは、各スタジオの換気扇に抗ウイルスフィルターを設置することで、キレイな空気が循環することを、公式ページなどでも動画で訴求。空調を十分に稼働させることで、マスク着用でも有酸素系の中等度の強度までのレッスンを提供している。

ソーシャルディスタンス維持のための定員と予約
ソーシャルディスタンスを保つため、スタジオ定員を以前の30~50%に制限し、整理券またはウェブ予約を導入して対応している。ルネサンスでは、スタジオレッスンは1本30分を上限として、参加者同士は2mの間隔でマーキングした定員数で実施。更に、お客様に心理的な安心感も提供できる様に、敢えてスタジオの扉を開けてレッスンを実施している。

定員については整理券で対応しており、整理券を配布する場所でのソーシャルディスタンスが保てるよう、クラブの中でも十分にスペースが確保できる場所で配布している。整理券の場合、レッスンに参加したくてクラブに足を運んでも、定員いっぱいで参加できないメンバーも出てくる。

その状況に対応して、参加希望の多いクラスについては、同じレッスンを2本続けて実施することなども始めている。これは、インストラクターの活動機会を確保する狙いもあり、1クラブ1日辺りのレッスンフィーがなるべく減らないように工夫している(オンラインでのレッスン予約機能については、高齢者のお客さまの利便性を考慮し、現在のところはあえて導入を見送っている)。

オアシスでは、スタジオレッスンは1本45分を上限として、ガイドラインに沿ってカテゴリーを運動強度の低いヨガやマット系のレッスンに絞って再開した。定員も以前の50%に制限しており、2019年4月から導入したオンライン予約システム「オアシスリザーブ」で、定員の管理を行うとともに、参加者はスタジオの参加位置も事前に予約できるようにしている。

ビフォーコロナから、一部人気の高いレッスンのオンライン予約をスタートしていたが、ガイドラインに沿った営業開始に合わせて、全レッスンをオンライン予約制とした。現状の予約ルールは、1人あたり最大4レッスンまで予約が可能で、毎朝7:00に翌週のレッスンの予約ができるようになっている。予約の際には、スタジオにマーキングされている位置も選んで予約するため、もし感染者の利用が判明したときには、接触密度が高かった人の特定もできる。

全クラスを予約制にしたことで、当初はオンライン予約に慣れない人へのサポートが必要だったが、現在は、事前予約できることで、クラスの込み具合が事前に把握できたり、自分の受けたい場所が選べたり、またレッスン前に並ぶ必要もなく「密」を回避できることで、より安心して参加できるとの声も多いという。

メガロスでは、1レッスン45分を上限にして、HIIT系以外は、有酸素系も含め従来とほぼ同様のスケジュールで営業を再開している。現状は、ウェブ予約と整理券対応のクラスが存在するものの、整理券対応クラスでは、配布がスタートするレッスン30分前に“争奪戦”のような状況が生まれてしまうため、8月9日にかけて全レッスンをウェブ予約対応に移行することを予定している。
オンラインレッスンと、デジタルマーケティング
営業自粛中からアフターコロナ期にかけて、大手フィットネスクラブも次々とオンラインでのライブレッスン配信をスタートさせた。3月10日にメガロスが、5月11日にセントラルスポーツ、5月18日にルネサンスとティップネスが、それぞれライブレッスンを開始。配信方法や、営業再開後のオンラインレッスンの位置づけにも、それぞれ違いが見られる。

ルネサンスでは、5月18日から「ルネサンス オンラインLivestream」を開始。1レッスン500円、月会費3,000円の価格設定で、現在全国に17拠点で、エリア別に担当インストラクターを募り、運営している。ライブレッスン導入の目的の一つとして、インストラクターの雇用を守ることも位置付けていたことから、レッスンの配信は、インストラクターの自宅からzoomを使って行うこととし、現在17拠点の配信ホストが、スケジューリングと集客、配信サポートを行っている。これまでに、約200名のインストラクターがライブ配信を行っている。

オンラインレッスン参加者は、ルネサンス会員が9割以上を占め、現在クラブで提供できていない、有酸素系のアクティブなクラスが人気となっている。また、夜のクラスの集客が高い傾向が見られている。「オンラインだから恥ずかしくなくチャレンジできた」「気軽に試せたから、次は実際のテンポで参加する勇気が出た」「スタジオの一番前で受けているようで、インストラクターの動きが見やすかった」など、オンラインならではのベネフィットをお客様に感じていただけていることもこのサービスの価値を高めていると考えている。

オアシスでは、2019年1月にライブレッスンアプリ「WEBGYM LIVE」をリリースしており、1日3~4本のライブレッスンと、オンデマンドレッスン数千本が、いつでも何度でも利用できる。運動履歴も残せて、月額1,950円で運営している。同サービスは、米国で人々の外出自粛期間中にユーザー数も株価も大きく伸ばしたPelotonをベンチマークしており、ライブレッスン用に環境を整えた専用スタジオで、バイクのライブレッスンから配信をスタートさせた。現在は、東京と大阪の専用スタジオから配信している。

同社では、2017年にクラブ以外でのフィットネス習慣をサポートするアプリ「WEBGYM」をリリースし、2年間無料で一般生活者にマーケティングを続け、利用者が50万人を超えている。この利用者が「WEBGYM」の有料会員(980円)や、「WEBGYM LIVE」会員(1,950円)にアップグレードする導線があることから、ライブレッスンの利用者も、オアシス会員以外の一般ユーザーも多いという。

またオアシスでは、オンラインショップの利用者も売り上げも倍増しており、購入者のWEB GYM会員登録も増えているという。WEBGYMレッスンを、オアシスのパーソナルトレーナーが担当するなどして、今後、オンライントレーニングサービスに繋げたり、オンラインでもフィットネスクラブのようなコミュニティ感を楽しめるような機能追加も進めている。

メガロスでは、緊急事態宣言に入った3月10日から、オンデマンドレッスンサービス「LEANBODY」と提携して、メガロスメンバーは2ヶ月間無料でオンラインレッスンが利用できるサービスを開始。それと同時に、白金台にあるスタジオをオンライン配信専用スタジオとして設備を整備し、メガロスインストラクターによるライブレッスン配信をスタートした。

6月には業務提携し、LEAN BODYのオンデマンドレッスンと、メガロスのライブ配信レッスンの両方が受けられる「メガロス LEAN BODY」のサービスを開始した。メガロスでは、クラブ会員のオプションサービスの1つとして位置づけ、入会当初1ヶ月は無料で利用でき、その後月980円で利用を継続できる。外部の方はメガロス LEAN BODYを、当初2週間の無料体験期間を経て、月1,980円で利用できる。

メガロスインストラクターによるライブ配信はzoomミーティングで行い、メンバーとのコミュニケーションを重視している。参加者にはできる限りカメラをオンにしてもらい、インストラクターは丁寧に一人ひとりの参加者に声をかけて、リアルレッスン同様のインタラクティブ感を楽しめるようにしている。リアルのスタジオでは遠慮してしまいがちな参加者でも、オンラインではインストラクターと近いコミュニケーションがとれる感覚が新たな体験価値として支持されている。

オンライン・オフラインの融合
現状のオンラインレッスンの共通の課題として、外出自粛が解除となり、クラブも営業を再開してから、オンラインレッスンの参加者数が減る傾向が見られることがある。クラブ運営企業各社でも、メンバーの来館や復会を促すサービス提供に注力することが目の前の課題としてあり、オンライン・オフラインを統合したサービス移行への施策が後回しになりつつある。

オンラインレッスンを提供し始めている関係者の間では、フィットネスクラブが営業を再開した後、集客トレンドは、リアルのフィットネスクラブと同じ傾向に戻り、平日の夜や土日のニーズが高い傾向が見られている。集客力のあるインストラクターも、ピークタイムのリアルの指導現場を優先することから、さらにオンラインレッスンの集客が難しくなっていると見られる。とはいえ、オンラインレッスンでは、これまで提供できなかった体験価値があることも、共通した認識となっている。クラブ運営企業では、オンラインサービスの休館日の活用や、メンバーがクラブに足を運べないときに利用してもらえるサービスとして再構築していく方向性が見られる。

今回のコロナ禍で、普段から顧客とのエンゲージメントを醸成できているクラブは、休会や退会が低く抑えられている事実もあり、その多くがオンラインでのメンバーとのコミュニケーションをスタートさせていた事実もある。アフターコロナでの会員価値について、経営者はもとより、クラブスタッフやインストラクターも含めてマインドセットを変え、オンライン・オフラインを融合させた会員価値をつくっていくことが、アフターコロナのフィットネスに求められていると言えよう。

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