掲載日:2021年06月23日  更新:2021年10月07日

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NEXT AWARD トレーナー・インストラクター オブ・ザ・イヤー 2012

フィットネス業界の発展に貢献する活動を表彰する、『トレーナー・インストラクター・オブ・ザ・イヤー』。
全国から寄せられた応募資料の中から、2012年の活動と実績が厳正に審査され、受賞者が決定!各受賞者のプロフィールと活動内容を一挙に紹介する。

プログラム開発の背景は、運動嫌いをなんとかしたい

テレビや雑誌など各メディアから注目を浴びている『シナプソロジー』。さまざまな刺激を利用して脳内のシナプスの働きを活性化するというメソッドである。このメソッドがフィットネス業界に取り入れられること自体、じつは、常識を覆すようなセンセーショナルなことである。このメソッドの開発に携わったのが、ルネサンスの商品開発部長、望月美佐緒さんだ。

「この業界で誰もが頭を抱えるのが、フィットネスクラブに来る人が、人口のわずか3%の人しかいないということです。なぜか。私たち指導者や運動が好きな人は、運動が身体にいいことを知っています。しかし、運動が苦手な人は、そもそも、『なんでお金を払ってまで運動しなきゃいけないの?』と思っているんです。また、一度来てやめた方々は、ついていけないし、うまくできないから。できないので褒められた経験が少なく、楽しくなくてやる気になれない、と感じていらっしゃるんです。そのような方に対して、今と同じアプローチではだめなのでは、とずっと考え続けていました。誰もが運動はいいと知っているのに、運動を避けようとしてしまう。それはやはり、“できないと褒められない。褒められないから楽しくない”という心理なんです」

“できない”を褒める画期的なプログラム


「出来なくても良い」もしくは「出来なくても効果がある」というプログラムがあれば多くの人が運動に触れ合え続けられるのではないか、望月さんはそう考えた。

これがシナプソロジーというプログラムの開発を手掛ける基軸になった。

まずシナプソロジーの語源にもなっているシナプスについて、簡単に説明しよう。

脳はさまざまな刺激を受けることで活性化する。脳の神経細胞(ニューロン)には、細胞同士をつなぐシナプスという接合部位がある。簡単にいえば、脳内の神経細胞間に信号を送るために機能する接合装置である。例えていうと、リンゴを見たときにリンゴと認識するまでには、視神経などを介して、脳内のいくつもの神経細胞と神経細胞間に信号が流れ、初めてリンゴと認識する。この神経細胞間に信号を流す、すなわち情報を伝達する役目をするのがシナプス(ギリシャ語でつなぐという意味)である。

「シナプソロジーはそのシナプスの接合を高めるということを意図した名前なんです(造語)」

さて、シナプソロジーを具体的に説明しよう。たとえば指導者が「1といわれたら右手を左肩に、2といわれたら左手を右肩に」など一時的な約束を決める。この短期的な記憶を脳にメモリーさせて、「1」とか「3」などランダムに番号を言い、約束した場所に手を動かすよう指示する。

「まず、この動きをしようと反応することが刺激となります。ここで、スッと正しくできる人もいますね。しかし、1といわれたのに、左手を右肩においたとしましょう。これは間違いなので『わ、間違えた』となりますが、これも脳にとっては大きな刺激です。間違えたと気付き、やり直そうとします。それは新しい刺激に対応しようとするから起きていることなんです。出来る出来ないより、その人にとって新しい刺激を受けそれに対応しようとすることが重要で、それによって脳は活性化していくのです。ですからシナプソロジーにおいては、できないことも良い事なので、それをきちんと捉え褒めていきます」

出来なくていい。いや出来ない方がいい。運動のみならず勉強においても今までとは180度違う価値観だ。

この脳への刺激が、認知機能の向上や、緊張・疲労感の軽減、注意機能や判断機能の向上などに役立つ。また、このプログラムは子供から高齢者まで、対応可能である。脳機能を高めることは誰にとってもまた心にも身体にも様々な効果をもたらすのだ。

時代のニーズはB・B・B 開発に全力を注ぐ

画期的なプログラム・シナプソロジーだが、そもそも開発のきっかけは何だったのだろうか?

「きっかけは、3年半前にドイツへプログラムの視察に行った際、そのような考え方のプログラムがあるのを知ったこと。そして時を同じくして、MIZUNOアクア創始者であるネバダ州立大学のメアリー・サンダース教授からも、『これからはB・B・Bの時代だよ』と言われたことが大きかったかもしれません。B・B・Bとは、バランス、ボーン、ブレーンの略。フィットネス界において、このブレーン(脳)に関しては未開拓な分野です。ここにはやはり取り組むことが大切だと確認できました」

さらに、偶然にも昭和大学脳神経外科の藤本司名誉教授とアレクサンダーテクニークのワークショップで知り合いになった縁から相談に行くと、その場で『やってみなさい!』と背中を押された。そうした出合いがプログラムの開発を進めていく推進力になったという。

「最も重要と考えていたのは、プログラムの体系化です。いくつかの基本の動作に対して、五感からの刺激と認知機能(言葉や記憶、空間認知力、計算など)に対する刺激を色々変えていくことや、楽しみながら出来ること、コミュニケーションが活性化するような工夫を取り入れました。今では200以上のプログラムを開発していますし、コンセプトさえ正しく理解していただければ、無限に生み出していくことは可能だと思います」

そして、このプログラムの効果測定は、筑波大学大学院の教授で株式会社THFの代表取締役社長の田中喜代次氏に依頼。大蔵倫博准教授の協力も得て、約2ヵ月間にわたって実験を実施した。その結果、脳を活性化するさまざまな効果が検証されたのだ。

「こうした1つのプログラムを開発するにも、いろいろな方々の賛同、協力なくしてはできません。やっても良いと判断してくださった上司、考え方を共有し、信頼できる方々と一緒に開発できたこと、また、展開に対して協力してくれたスポーツクラブやヘルスケアのスタッフがいることはとても幸せなことでした」

「動けば変わる、動けばわかる」自分自身も気付かされたこと

今回の開発にあたり、望月さん自身が分かったことがある。

「これまで私たち指導者は、出来るようにすることが良い指導という価値観の中で過ごしてきていますから、この価値観から抜け出しにくい。つい、できることばかりを褒めてしまったり、できるようにしなきゃと思ってしまったりするのです。しかし、実際にプログラムの指導練習を指導者同士で行った際、ある指導者が、『出来ている隣の人が褒められていると、出来ていない自分が情けなくなる』と言っていました。その言葉に『お客様はいつもこんな思いをしていたんだなあ』と気づきました。また他の参加者は『混乱しているのはチャレンジしているからです。混乱が起きている人の脳が一番活性化している人ですよと言われて本当にうれしかった』と言っていました。そういう指導ができれば、出来る人も出来ない人もみんなが心の底から笑って楽しめる。それが一番いい状態。この笑顔によって、脳の機能が向上するだけでなく、コミュニケーションが深まり人間関係もよくなるなどさまざまな効果を実感しました」

ルネサンスでは、フィットネス会員向けに全国80クラブで導入。またスイミングスクールの準備体操時に導入したり、『ルネサンスリハビリセンター大船』で運動機能改善にも活用。更には受託している自治体向けの「認知症予防教室」や企業向けの健康セミナーでも利用している。

もはや、シナプソロジーは、スポーツクラブ業界を飛び出し、大手飲食チェーンの社内研修で活用されたり、介護予防事業者、幼稚園のプログラム、テーマパーク内の親子イベントなどでも利用されている。

「『動けば変わる。動けばわかる。』をモットーにしてきました。この開発でさらに働きかければ変わる。働きかければわかる。という新たな勉強にもなりました」と語る望月さん。

シナプソロジーという画期的なプログラムは、今後、さまざまな分野で発展し、ますます旋風を起こしていくだろう。

もちづき・みさお
株式会社ルネサンス 執行役員 商品開発部長
ミズノ株式会社 アクアアドバイザーや産業カウンセラー、日本体力医学会会員などを務める。

受賞理由
シナプソロジーというこれまでになかった画期的なプログラムの開発を、フィットネス業界から発信した望月さん。業界の貢献度が大きいのはもちろん、現代社会における、運動離れや高齢社会の到来などさまざまな問題に対しても役立つプログラム開発は、社会的貢献度が大きいと高く評価された。

MUST ITEM!
Jo MaloneのVanilla & AniseとWhite。Jasmine & Minteのコロンを、その日の気分で適当に2つをコンバインしながら使っています

写真
ボールを使ったシナプソロジー


SYNAPSOLOGY シナプソロジー
シナプソロジーメソッドの普及のため、さまざまな分野の方を対象に、各認定資格取得コースがある。詳細はシナプソロジー普及会へ。
[問い合わせ先]
シナプソロジー普及会
TEL:03-5600-5331
E-mail:synap@s-renaissance.co.jp
〒130-0026
東京都墨田区両国2-10-14
両国シティコア3F
株式会社ルネサンスフィットネス教育研究所

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