掲載日:2021年06月25日  更新:2021年10月07日

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NEXT AWARD トレーナー・インストラクター オブ・ザ・イヤー 2014

フィットネス・トレーニング指導者の活動範囲を広げ、広く業界と社会に貢献する活動を称えるネクストアワード『トレーナー・インストラクター・オブ・ザ・イヤー』2014の受賞者が決定!
フィットネス・トレーニング分野で高い価値を生み出している各受賞者の活動内容を紹介する。

さらにこのダイエットを成功させるための行動変容の考え方も、石川さんは行動科学研究者の知見から、これまでにない新たな提言をする。

石川さんは、「ある行動を続けるのに、モチベーションは関係ない」と言い切る。そして、新しい生活習慣を得るために、主に2つのことを挙げる。それが「習慣づくり」と「自己効力感」を得ることだ。

「習慣づくり」のために有効なのが「セルフ・モニタリング」という手法で、決めた行動を「できた」「できなかった」の2択で、毎日どちらかにチェックをいれていく。すると、「できた」にチェックを入れたいから決めた行動をしようとする心理が働き、行動が習慣化されていくという。

「自己効力感」については、石川さんが国のメタボ予防の研究で携わった研究結果をもとに説明する。100人ずつ2つのグループをつくり、1つのグループには、運動と食事の指導をきめ細かくして、その行動を理解させ、実施したことに報酬を与えるなどして自信をつけさせていく。もう1つのグループには、運動や食事に関係なく、その人自身が自信を持てるワークなどを行った結果、どちらが運動習慣がついたかを追った。すると、後者の「運動や食事に関係なく、その人自身が自信をもてた」グループのほうが運動習慣がつき、成果も高かった。石川さんはそうした知見を踏まえ、こう加える。

「おそらく、売れているトレーナーさんは、この『自己効力感』をクライアントさんに提供できているんだと思います。運動や食事の知識を持っていることよりも、モチベーションを惹き出すことよりも、もっと有効なことがあるという示唆は、様々な研究から得られているんです」

現在、石川さんが東大の研究室で取り組んでいる研究も「感情と身体活動の関係」。「やる気が出る活動より、楽しさを感じられる活動のほうが身体活動の増加に繋がる」ということを検証中だ。

「つながり」と「運動」で、人々が健康に


石川さんの研究では、メタアナリシス(メタ解析)という手法が使われることが多い。通常の研究は、基本原則である①誰に対して、②何のプログラムを行い、③ほかのどういうプログラムに比べて、④どういう効果が見られたか、というステップを用いて行われる。一つの研究で結果が出ても、その結果にはばらつきが出ることは普通で、ある研究で効果があるとされたものでも、再現性が弱い場合も少なくない。そこで、こうした独立した研究を、多数蓄積して統合的に分析することで、より信頼性の高い研究結果を導き出そうとするのが「メタアナリシス」。さらに、その理論が本当なのかを確認するべく、ある結果が出るとされたことが、実際に誰に有効で誰に有効性でないのかを検証する「メタ回帰分析」も重視していると話す。

石川さんが書籍『友達の数で寿命は決まる』で紹介した「寿命に影響を与える要因(表2)」に関する研究も、このメタアナリシスの手法で得られた結果である。これは2010年アメリカの研究者ホルトラン・スタッドによるもので、20世紀と21世紀に行われた148の研究をメタアナリシスした結果、タバコより、太り過ぎないことより、「つながりがあること」のほうが、寿命を長くするうえで影響力が高いという結論が導かれている。海外には“健康寿命”という言葉や概念がないことを考えると、“寿命を長くする”は“健康寿命を延伸する”と同義語であると考えられ、非常に興味深い研究結果である。

もう一つ、石川さんが見つけた興味深い研究に、「タバコを止めるには、運動をすることが有効」というものがある。その他にも、「複数の健康にいいとされる行動がある中で、何から始めると最も効果的か」という研究も数々あり、「運動をはじめに行うと、その他の健康的な行動が促されやすい」という示唆も得られているという。これは「ゲートビヘイビア」と呼ばれ、行動変容のきっかけとして何が有効かという研究分野として、既に多くの研究がなされているという。

健康づくりにとって最も大切なことが「つながり」であり、さらに「運動」が健康のためのゲートビヘイビアであるというニュースは、フィットネス関係者にとっては朗報だ。フィットネスクラブは人が多数集う場所であり、トレーナーとつながり、レッスンやサークルで仲間ともつながれる。さらに、「運動」が始められる環境が充実しており、様々な運動の選択肢が用意されていることから、自分が楽しめる運動も見つけやすい。石川さんの理論や知見を活かした新たなプログラムをフィットネスクラブや業界関係者が構築できれば、さらなる成果と価値が提供できることになる。

石川さんは、今後も人間行動に関する理論づくりと検証に邁進する。様々な事例から導いたパターンを数式化することで理論が生まれ、現在のテクノロジーの進化とともに、その理論に基づいた行動変容を効果的にサポートするテクノロジーも生まれていく。健康づくりについての包括的な理論化はまだ発展途上。石川さんは研究現場と、健康づくりの現場の架け橋になりながら、人々の健康に本当に良い情報を発信し、指導が実現されていくことを目指す。

石川さんは医師である父から、幼少期に野口英世の伝記を渡され、野口英世が病気の原因を見つけて、治療法を見つけることで、多くの人が救われたことに感銘を受け、「自分も、そんな仕事がしたい」と子ども心に思ったという。「肥満」や「生活習慣病」といった世界的に大きな課題の原因が明かされ、対処法が生み出されることで、多くの人も、家族も、国も救われる。その実現に向けて、さらなる研究が進んでいる。

石川善樹さん Yoshiki Ishikawa
(株)Campus for H共同創業者。
広島県生まれ。東京大学医学部卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院修了。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして研究し、常に「最新」かつ「最善」の健康情報を提供している。専門分野は、行動科学、ヘルスコミュニケーション、統計解析等。NHK「NEWSWEB」金曜日ネットナビゲーター。ビジネスパーソン対象の講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。著書に『友だちの数で寿命はきまる人との「つながり」が最高の健康法(マガジンハウス)』。

受賞理由
数々の新しい提案が、エビデンスに基づいたもので、さらにそれが、一つの研究結果や理論でなく、数多くのエビデンスを統合した研究に基づいて構築した理論や提言となっていることが異彩を放つ。さらにその提言がフィットネス産業を後押しする情報であることが、業界関係者にも勇気を与えた。

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