掲載日:2021年08月25日  更新:2021年10月07日

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NEXT AWARD トレーナー・インストラクター オブ・ザ・イヤー2020

フィットネス・トレーニング指導者の活動範囲を広げ、広く業界と社会に貢献する活動を称えるネクストアワード『トレーナー・インストラクター・オブ・ザ・イヤー』2020の受賞者が決定!
フィットネス・トレーニング分野で高い価値を生み出している各受賞者の活動内容を紹介する。

数々のボディワークトレーニング理論を統合

2020年の一年で、人々の生活は様変わりした。コロナ禍での長期にわたる外出自粛から、運動不足になり、身体の機能が低下することで、認知機能の低下が見られる人も急増した。三密を避けたいという心理から、ジムから足が遠のいた人が増える一方で、健康意識が高まり、運動の必要性を感じる人も増える一年となった。

コロナ禍以前から、運動療法は年々注目度が高まっていたが、2020年は外出自粛により、改めて慢性的な不調を感じる人が増え、外出自粛中でも、その不調を確実に解決できる治療家や専門家のところに人が集まった。多くの運動施設が苦境に陥る中でも、そうした治療家や専門家がいる治療院やサロンでは、むしろ顧客が増えるという現象が見られている。

佐藤博紀さんもコロナ禍でクライアントとの新しい関係が増えた一人。ロルフィングをはじめとしたさまざまな手技療法に精通し、欧米でアスレティックトレーナーとして活動した経験から、リハビリからパフォーマンスアップまで、さまざまなニーズに対応している。自身のスタジオ、TENでパーソナルセッションを提供する傍ら、治療家や専門家向けに、世界で注目される各種ワークショップを開催。通訳としても多くの理論に触れてきた。

自身のアスレティックトレーナーとしての経験と、それらの理論を照らし合わせ、臨床で検証しながら統合していき理論にまとめたのがIMACである。IMACの「I」は、Integrative(統合的な)の頭文字。まさに、西洋医学、東洋医学、外科的、内科的それぞれの知見を統合させ、身体の全体性を診るアプローチとなっている。

具体的には、IMACは可動域をベースに身体を評価し、代償として出ている可動域制限と、根本原因となっている可動域制限を見極め、その根本原因にアプローチする手法をとる。全身の可動域制限の関係について理解を深めるほどに、根本原因に効率的にたどり着くことができ、確実な効果が得られるが、一つの可動域制限からでも、相応の解決アプローチが想定できることから、セルフケアにも活用され始めている。

この理論を応用して、2020年にメディアでも注目を集めたエクササイズに、パーソナルトレーナーとして活動する星野由香さんが提唱する「ほぐピラ」がある。肩こりや腰痛など、多くの人の悩みに関係する関節の可動域を出す筋膜リリースを紹介する内容だが、効果を実感する人が多く、リモートワークが広がる中、インフルエンサーからメディアへと情報が拡散し、不調を持つ女性たちに大きな影響を与えている。

可動域制限-内臓―経絡の相互関係を見出す

佐藤さんがアスレティックトレーナーに興味を持ち出したのは高校生の時。野球部で活動していたが、ケガをすることも多く、トレーニングの本を読んでいるうちに身体への興味が膨らみ、卒業時にはアスレティックトレーナーになることを目指して渡米することを決めていた。

大学時代から、様々な競技で実習を積む中で、佐藤さんが特に興味を持ったのが「手技療法」。アスレティックトレーナーの仕事は、応急処置や急性期のリハビリやケアの仕事も多かったが、痛みやケガのある周りの関節や筋肉にアプローチすることで、慢性的な悩みが解決でき、ケガの再発防止になることにも、やりがいを感じるようになる。対処療法でなく、根本的な原因解決のためのアプローチとして興味を持つようになる。

大学を卒業して、NFLや欧州のアメフトチームでアスレティックトレーナーとして活動していた際も、特にプロの選手たちはケアへの意識が高く、手技療法を活用する人が多い環境だったことも、佐藤さんの興味に拍車をかけた。練習や試合に臨む選手たちの身体を毎日触っているうちに、体調や組織の変化など、触ってわかることの知識と経験が蓄積されていった。

そこで、手技を本格的に学ぶためにロルフィングを学ぶことを決意。ロルフィングは、10回のシリーズで、表層から深層へと順に筋膜にアプローチしながら全身の組織の繋がりにある偏りを調整していき、重力との調和の取れた体と動きを目指していく。

同時期に学んだのが、MuscleActivationTechnique(sMAT)である。可動域の制限が見られる場合、主動筋に問題があるとして、主動筋の出力を高めるアプローチをとるもの。可動域評価は、各関節で、外旋位、内旋位など、それぞれにかなり細かく見ていくもので、身体の状態の評価としては有効だと感じたが、可動域制限を改善するアプローチの効果が一過性であることが気になっていた。

それ以外にも様々な療法を学んできたが、その一つがオステオパシーの「内臓マニピュレーション」だ。オステオパシーも、身体全体の歪みや制限を評価し、整えることで自己治癒力を回復させるアプローチだが、そのセミナー中に内臓と筋骨格系の関係を目の当たりにすることになる。施術を練習するときにペアを組んだ人が、股関節外旋位で屈曲制限が見られ筋出力にも制限があったが、筋肉ではなく盲腸周囲の筋膜にアプローチしたところ、股関節の動きと筋出力が見違えるように改善したのだ。

こうした体験から、臨床の場でも、可動域制限と内臓の関係を確認しながら施術をするようになると、慢性的な痛みや内臓の不調も改善されるケースが増えていく。その再現性の高さに、仲間の治療家からセミナーの依頼があり、可動域制限と内臓の関連性を整理したことが、IMACが生まれるきっかけとなった。

その後さらに、東洋医学における経絡との関係も見出されていくことになる。

そのきっかけは、通訳をしていた往年のオステオパスが磁石による身体の変化を教えてくれたことだ。身体の特定の場所に磁石を置くと、その周囲の組織が変化する。そこで、可動域にも変化がでるのではないかと磁石と可動域の関係を佐藤さんは探っていった。それ以前から「内臓と可動域に関係がある」ということは分かってきていた。そこに経絡上の「原穴」と呼ばれる経穴(ツボ)に磁石を置くと、その経絡に関与する可動域に変化が出ることを見つけていったのだ。

こうして、可動域制限から内臓へ、経絡へと理論が繋がり、すべての理論を統合(インテグレート)させて、全身の可動域・筋肉・内臓・経絡の関係をマッピングしていった。そして、動き(ムーブメント)、評価(アセスメント)と調整(コンディショニング)を行える法則にまとめたものが、現在のIMAC(インテグレーティブ・ムーブメント・アセスメント&コンディショニング)である。

IMACの活用

現在、この理論は、治療家や専門家が活用できるIMACと、セルフでの運動療法にも活用できる「Meridian Movement Method(経絡動作方法)」の2つで展開している。「IMAC」は、20通りの可動域を左右で評価するため、全身40の可動域チェックをしたうえで、可動域制限の多さや関係性、体調不良に関するカウンセリングをもとに、不調の根本原因を特定していく。可動域チェックは他動的に行うことが多く、施術も手技を中心として、根本原因に関与する可動域制限をとる筋膜や組織にアプローチしていき、必要があれば運動療法も用いる。

一方、「Meridian Movement Method」は、十二正経に関わる12の動きを左右で行なっていくセルフケアの方法だ。身体に触らなくても、動きのエラーや左右差に応じて、身体の評価もでき、必要な動きの指導ができることから、オンラインでのセッションにも活用できる。

理想的には、全身の可動域のチェックを行ったうえで、根本原因を特定していったほうがいいものの、可動域の制限が見られる部分にアプローチするだけでも一定の効果が得られるため、幅広い場面で活用することができる。

可動域制限を共通言語に、治療からトレーニングまでの知見を共有したい

佐藤さんのクライアントは、慢性疾患を抱える方からトップアスリートまで様々で、年齢層も、赤ちゃんから高齢者まで幅広い。IMACが治療からパフォーマンスアップまで、幅広く効果が出せる理論として検証が進んでいる。

そのことから、佐藤さんは、今後さまざまなフィールドで活動するトレーナーや治療家の方々とも、この理論を共有し、活用してもらいたいと情報発信を進めている。

「可動域を共通言語に、メディカル分野からトレーニング分野、介護予防分野まで専門家同士がコミュニケーションできることで、身体の仕組みがさらに解明されていくと思います。IMACのアプローチ方法もそうですが、論理的に説明することは難しいけれど、可動域が改善し、再現性が高い施術や理論は他にもまだまだあります。IMACの客観的可動域評価を通して治療家、専門家の方々と情報共有しながら、さらにブラッシュアップしていきたいです」

2021年2月から、オンラインで「IMAC」と「Meridian Movement Method」を情報共有できる環境も整備し、今後、セミナーや勉強会も増やしていくことを計画している。

佐藤博紀さん Hiroki Sato
TEN〜the Space for your Life & Body〜 代表
ロルファー・アスレチックトレーナーの認定を持ち、施術歴15年。オレゴン州立大学エクササイズ&スポーツサイエンス学士、インディアナ州立大学大学院アスレティックトレーニング修士号取得後、NFLなどでアシスタントトレーナーとして活動。2008年帰国し、大阪北浜にTENを開設。プライベートセッションを提供する傍ら、数々のボディワークや手技療法のワークショップを開催。通訳を務める他、独自で開発したIMACセミナーも開催。資格に、NATABOC-ATC、NASM-PES、RISI公認ロルファー、MAT認定スペシャリスト、Source Point Therapy認定インストラクター。

MUST ITEM
仕事に必要なのは、自分の「手」と「目」。まず「手」で触って、クライアントを見ます。「手で見る」ことでたくさんのことが見えてきます。手で触れない場合は、「目で触る」ようにしています。

写真
①NFLで働き毎日選手に触れていたことが、手技療法への興味に繋がり、選手たちの高い意識に応えるべく知識と技術をつけようと必死に取り組んでいたことが今に生きている。

②スタジオTENでは、普段の施術だけでなく、各種の手技療法のセミナーを記載。セミナー時の観察、質問などからIMAC発展のキッカケになることも今まで多かった。

③2020年からはオンラインセッションによる海外との情報共有の機会が増え、通訳をやる機会も増えている。外出自粛で移動時間が減った分、セミナーオンライン化の準備など、今までできなかった事に取り組めた。

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