掲載日:2021年08月15日  更新:2021年10月07日

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就職希望者必読フィットネス業界を徹底分析!
Club Business Japan

そうした状況下、ピープルが月会費の見直しに着手した。それまで一律だった月会費を主に施設規模に合わせて見直した。元々クラブ経営の重要なポイントは、立地・施設・料金の主要3要素を地域の顧客ニーズに合致させることにある。同社はそれをクラブごとに精緻に整えたのだった。同社は、ジム・スタジオタイプの小規模クラブを月会費4千円というそれまでの業界平均の半額で売り出した。これは振り返ると一時ではあったが、需要を喚起した。さらにピープルは、ナイト会員・アクア会員・モーニング会員・ホリデー会員・アフタヌーン会員など、時間軸や空間軸で制限をもたせた会員種別をレギュラー会員の6~7割程度の価格で発売した。これにより施設稼働率が改善されるとともに、会員数が1千名以上増加するケースが続出、なかには会員数が2~3倍に達するクラブもあった。同手法では、客単価は下がるものの総売上高と利益が高まった。また営業時間を延長させたこともあって、施設稼働率がさらに高まり投資効率も高まっていった。これに加えて同社は、積極的にグループエクササイズを拡充させた。これも大きな成長要因となった。そうした様々なマーケティング策に大手企業は追随していった。しかし、変化対応しにくい独立系のクラブはなかなか同様の手法をとれず徐々に経営を悪化させていった。そうしたクラブを大手企業らが肩代わりし、施設をリニューアルして経営を再建していった。こうしてフィットネス業界大手企業は、長期に渡る不況にも関わらず、業績を伸ばすことに成功していく。この結果、日本の市場が二極化の傾向を強めていった。

90年代後半には、フィットネスをさらに広い消費者層にマーケティングしていこうとする業態開発が大手企業を中心に積極的に行われ始めていく。プールがない都市型施設や温浴施設やスパ、子ども向け施設を付帯した大型施設が展開された。

99年には、それまで下降傾向にあった客単価を引き上げようとの動きが見え始める。特に比較的安価であった時間軸・空間軸で制限を持たせた会員種別の価格を若干値上げしたり、有料プログラムや飲料の販売など付帯収入を高める動きが見えた。

再編期 2000~2001年

00年から01年への世紀の変わり目には、業界再編の始まりと新たな成長を感じさせる出来事が立て続けに起こった。00年11月のセントラルスポーツの株式公開、同年12月のルネサンスとスポーツクラブトリム(以下、トリム)の合併、01年4月のティップネスとレヴァンの合併。2月にはピープルの資本主体がマイカルからゲームソフト大手のコナミに変わり、3月にはNASがササダ・ファンドに買収された。

ただし、00年度、先行各社の既存店の売り上げは、それまでの5年間ほどの伸びを示さなかった。また、この頃から新会社の不振や成長戦略の見直しから、フィットネスクラブ経営子会社を売却するなどの動きも活発化していくことになる。

00年度のフィットネス業界の不振は一時的なものでは終わらず、その後02年まで続くことになる。折りしも日本経済は00年春からITバブルが崩壊、財政引き締めが続き、公共政策が削減され、景気は悪化の一途をたどることになる。

再調整期 2001~2002年

01年の対前年の市場規模伸び率は0.0%となる。そしてこれに続く02年のそれはマイナス2.0%と縮小してしまう。打つ手が見つけられないなか、各社は既存店のリノベーションや館内セールスの強化、体成分分析器導入によるカウンセリングの強化、新店では早期入会者への月会費の永久割引の提供などにより、新規入会者の獲得を目指した。

02年には、その後業界関係者の注目を集めるいくつかのクラブをベンチャー企業が開発している。また、00年からの業界再編の流れもそのまま続いた。

再復調期 2003~2006年

03年夏頃から新規店と一部の企業の既存店の業績が上向き始める。01年からの再調整期の間に打った策が奏功し、入会率、定着率、利用率、客単価が徐々に上昇していき、回復の道へと向かい出した。低体力者や疲労者が多くなり、リラクゼーション系のサービスを採り入れるクラブが増え始めたり、パーソナルトレーニングやダイエットプログラム、カルチャー系プログラムなど、個々のフィットネスニーズに対応するプログラムを採り入れるクラブが増えていった。そうしたなか、プログラム面ではティップネスが03年大々的にプロモーションをかけたヨガが大ヒットする。これにより、クラブ離れが目立っていた20~30歳代の女性層が再びクラブを利用することになった。また同年には、女性専用小規模サーキットトレーニングジムの日本1号店「Jサーキット苦楽園」ができている。同業態は、05年のベンチャーリンクによるカーブス1号店出店から急速に出店が増え、現在日本に約3千店弱が開業され、一部の総合クラブの集客(入会予算)に影響を与えるまでになっている。

市場規模は06年にそれまでの最高値となる4,072億円を記録。05年、06年と対前年でそれぞれ年率5~6%の成長を実現。

総施設数が増えるなか、成功するためには業態ごとにポジショニングを明確にすることが求められている(図1参照)。

また03年6月には「地方自治体の一部を改正する法律」が公布され、その中に「公の施設」の管理運営を民間市場に開放する「指定管理者」制度があり、民間クラブが競って各自治体へのアプローチを始めた。「多様化」と「成長」がこの4年間の業界を語るキーワードである。だが一方で、確実に競合環境は厳しさを増し、06年秋には個々の企業の収益力に陰りが見え始めていた。

図 1:業態別ポジショニング

00年代後半、「ビリーズブートキャンプ」や「コアリズム」などエクササイズDVDが流行した
cコアリズム(2008)/エクサボディ

第三次調整期 2007~2011年前半

フィットネスクラブの市場規模は06年をピークに07年から減少。上場大手企業の09年度の経常利益は5年前と比べると半分以下の水準まで落ちた。

その外的要因としては、以下の4点が考えられた。①景気の低迷と消費の選択肢の広がり:景気が低迷する一方、消費の選択肢は広がっている。ケータイや生活用品等への消費は多くなってきているが、美容・健康関連への消費は縮小してきているうえ、フィットネスクラブの機能の一部を代替するような商品サービスがいくつも登場してきてボーダレスの競争状態となりつつある。②ライフスタイルと消費行動の変化:今の若手層は仕事で忙しく疲れているにもかかわらず、収入も少ないため、スポーツにも消極的になってきている。③業態の多様化と専門店の台頭:フィットネス・スポーツ関連施設が多様化し、さらに専門店化してきている。④競合から競争へのステージの変化:1ヶ所にクラブが集中し過ぎたことで、これまでバランス良く競合していたものが、激しい競争になっている。

また内的要因としては以下の4点が考えられた。①戦略構築力の弱さ:経営者または経営幹部のビジネスモデル構築力が弱くなっている。また、そのベースとなる起業家精神も衰えてきている。②価値強化力の弱さ:市場の変化に対応したマーケティングをし、組織能力を高め、それと同期して顧客価値を高めていく力が弱い。③価値伝達力の弱さ:効果と効率を両立した新たなプロモーション手法の確立にチャレンジしていない。④顧客創出力の弱さ:顧客が満足し、喜んでお金を払うアイテム・サービス・システムの開発やフィットネス参加者を増やす効果がある分野の開拓などへのチャレンジが甘い。

安定期 2011年後半~現在

11年から各社がそれぞれ既述した外的要因・内的要因を意識し業績回復策を模索し始めた。その鍵は、既存店においては基本に立ち直り「顧客」が満足する価値をどのようにつくるかであり、新規店においては革新的な業態を創造し、いかにその価値を伝えるかにあった。この間、主に総合型のクラブを展開してきた既存大手プレイヤーはスクールへの注力と成人会員の定着促進、新業態による特定の層の取り組みなどにより、一部を除いて業績を安定化させている。一方、主に小規模目的型のジムやスタジオを経営する新規事業者にも勢いがあり、出店数を伸ばしている。

コロナ禍はあったが、中長期的には成長市場となるだろう。その根拠は、若き情熱ある起業家が台頭しイノベイティブな業態・サービスを創造しつつあるからである。

2010年代から、マイクロジムが増え始める

一目でわかるフィットネス業界史

’60S

東京オリンピック(64)
・民間スイミングクラブ登場(65)
・セントラルスポーツ株式会社設立(69)