掲載日:2021年10月27日  更新:2021年10月28日

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【介護予防研究の視点から】「社会的フレイル」による健康二次被害と、その予防

筑波大学教授の山田実さんは、高齢者の介護予防の研究者としてフレイルやサルコペニアの予防についての調査研究を行い、国際的にその研究成果を発信している。
コロナ禍での高齢者における健康二次被害として、特に危惧されているのが、独居で近隣住民と交流が少ない高齢者の健康被害。高齢者が「人とのかかわりがなくなる」ことによる健康二次被害予防のために、フィットネス関係者ができることについて、話を訊いた。

筑波大学教授 山田 実さん

まず、山田さんが、高齢者の健康二次被害として最も注意を喚起するのは、ステイホームにより、身体活動が減少したことと、外出する機会を失ってしまったことだ。

コロナ禍以前は、地域でも、社会全体としても、高齢者がウォーキングやお買い物に行くことや、サークルやボランティアなどに参加することが介護予防に繋がるとして奨励されていた。
ところがコロナ禍に入り、政府からも市町村単位でも、感染対策を優先することで真逆ともとれるメッセージが発せられる事態となった。
つまり、「ステイホームで、不要不急の場合以外は、出歩かない」「人と会わない、会話をしない」など、高齢者にとっては、フレイルやサルコペニアのリスクを高める生活習慣が奨励されることとなった。

山田さんは、この状態が1年半続いた今、今後も断続的に外出や人との交流が制限されれば、その健康被害は甚大なものになると警鐘を鳴らしている。

「以前、東日本大震災のときにも、高齢者が外出する機会を失ったことで、要介護認定者が急増したことがありました。避難所生活や転居などで地域のネットワークが構築されないまま、高齢者が行き場を失ってしまったのです。今回は、一地域ではなく全国規模で、かつ長期化しています。さらに、我々がコロナ感染拡大の第1波の時に、高齢者の活動量を調査したところ、想像していたよりも活動が制限されており、また、この1年間でフレイル状態になった人が16%にも及んでいることが分かりました。平時であれば、11%増で推移してきていますので、5ポイントもの高まりは注視すべき状況と言えます。現状では、要介護認定者割合の増加は例年並みとなっていますが、今後激増していく可能性があります」

近隣住民と交流が少ないと、フレイルを発症しやすい

コロナ禍第1波の緊急事態宣言から、1年後のフレイルの発症状況に関する研究では、「独居かつ社会参加なし」の高齢者では、約3割もの方に新規のフレイル発症が認められた。独居でも社会参加があれば15%にとどまり、家族と同居している高齢者でも12~16%にとどまっており、顕著に影響を受けていることが分かる。

山田さんは、この「独居かつ社会参加なし」の高齢者を、「社会的フレイル」として、健康二次被害を最も受けやすい層として着目し、この層の中でも、健康意識を少しでも持っている人へのアプローチに注目している。

「社会的フレイル」とは、「一人暮らし」「近隣との付き合いがない」「サークルやボランティア、就労など、活動の場に参加していない」高齢者を指す。
一般的にフレイルになるきっかけは、転倒してケガをすることをはじめ、入り口は広いものの、この社会的フレイルになると、身体機能の低下とともに、認知機能や精神機能の低下も認められやすくなるなど、悪循環に入りやすい。
特に、コロナ禍では、独居高齢者の情報源が偏った情報となりやすく「外に出てはいけない」と思い込み、それが必要以上の行動抑制に繋がり、社会的フレイルが強化されてしまったと山田さんは見ている。

山田さんは、この「社会的フレイル」が、サルコペニアなどの身体的な問題を引き起こすメカニズムについても研究している。それによると、コロナ禍で高齢者が買い物に行く頻度が下がることで、特に生鮮食品の摂取頻度が下がったという。その結果、乾きものを中心とした食材に偏り、献立の多様性も品数も減っているという。
これにより栄養面からも健康状態が低下することになり、サルコペニアのリスクが増大する。サルコペニアになることで、さらに活動量や社会参加が減り、フレイルから介護状態へと移行しやすくなってしまう。

「ウェブ版集いの場」で 外出を自粛している高齢者にアプローチ

「家族や地域との交流がある高齢者の中にも、外出自粛を続けている人も少なくない」と山田さんは加える。
コロナ禍以前に、高齢者の健康維持に機能しはじめていた高齢者の自主活動である「集いの場」も、緊急事態宣言で軒並み中止された。再開後も高齢者の戻りは遅い。その理由に、高齢者自身や高齢者の家族が有する感染への過度な恐れがあるようだ。

この状況からの健康二次被害予防として、山田さんは、外出を自粛している高齢者と、その家族、地域に適切な情報を届けるとともに、できるだけ双方向のコミュニケーションの機会をつくる取り組みを進めている。

実証実験として「ウェブ版集いの場」を2020年12月からスタート。
高齢者のフレイル発症予防の啓発と、オンラインでのコミュニケーションの場を創っている。
(登録は無料。http://www.yamada-lab.tokyo/signup/)。

この「ウェブ版集いの場」では、週1回メルマガを配信して、YouTube動画で「生活習慣の改善方法」や「コミュニケーション量の増やし方」などについて、研究者による信頼できる情報として提供。それとともに、オンラインで質問を受け付け、次週にその回答をメルマガやYouTubeに収録して配信する。その質問や回答、読者の感想などを共有することで、自然に高齢者同士で仲間意識が芽生えてきているという。

フィットネス業界関係者ができること

山田さんは、フィットネス業界関係者ができることとして、フィットネスの専門家として、信頼できる情報を発信し続けることを提唱する。
高齢者の多くは自分では情報を取りに行かないため、高齢者が生活の中で、その情報に自然に触れられるようにすることが重要だという。

「クラブの入り口などに、入会の案内だけでなく、より健康的な生活習慣を持つことを啓発する情報を貼ったり、町の掲示板や広報誌をはじめ、高齢者の目に触れる接点を通じて、アプローチし続けることが大切だと思います。コロナ禍の健康二次被害は、今後、かなり長く、広範囲にわたって出てくるでしょう。緊急事態宣言が解除されて、人々が動き出すようになったからOKではなく、地道に、専門家からの信頼できる情報を発信し続けることをお願いしたいです」

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