掲載日:2021年10月28日  更新:2021年10月28日

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【運動疫学の視点から】「座りすぎ」による健康二次被害と、その予防

早稲田大学スポーツ科学学術院教授で、日本運動疫学会理事長の岡浩一朗さんは、座りすぎによる健康リスクと対策に関する研究における第一人者。
コロナ禍による健康被害についても、1年半におよぶステイホームの呼びかけによる外出自粛で、人々の座位時間が増えていることに着目。その健康リスクと対策に関する研究を進めている。コロナ禍での「座りすぎ」による健康二次被害とその予防について、エビデンスとともに紹介する。

日本運動疫学会理事長 岡浩一朗 さん

活動的な人は、コロナ感染リスクが低い

まず岡さんは、「活動的な人は、新型コロナウイルスへの感染、重症化および死亡率が低い」ことが示された2つの研究を紹介する。

「図1はイギリスの研究、図2は韓国の研究です。ともに、2018年時と、2020年を比較して、コロナ禍以前の身体活動量と、新型コロナウイルスへの感染、重症化率、死亡率の関連について分析しています。コロナ禍以前のデータと比較できるのは、国単位で大規模な追跡調査が継続的に行われていることが前提になりますので、この2つの調査結果は、世界でも数少ない貴重なデータと言えます」

 図1は、身体活動のガイドラインを基準に、「一貫して活動的な群」「ある程度活動的な群」「一貫して不活動な群」で、入院率、ICU(集中治療室)入室率、死亡率を比較している。
一貫した活動的な群を基準とすると、一貫して不活動な群では、入院率で2.26倍、死亡率で約2.5倍となっており、感染による重篤化率が高いことが分かる。

図2は、米国の身体活動ガイドラインに基づいて、「筋トレ」および「有酸素運動」のガイドラインを充足していることと、新型コロナウイルスとの関連について検討している。
結果として、ガイドライン「非充足」の人に比べて、両ガイドラインを充足していることは、感染リスクが15%、重症化リスクは58%、関連死リスクは76%も低いことが分かった。

どちらの調査も「身体活動のガイドライン」として、WHOや米国が提唱している身体活動量ガイドラインを用いており、これらのガイドラインの有効性が確認された結果ともなっている。

※WHO身体活動量のガイドライン
 WHOの健康づくりのための運動の指標
 中等度の運動を週150~300分、または高強度の運動の場合、週75~150分

1日8時間以上座っている人は、死亡リスクが高い

岡さんが、コロナ禍の健康二次被害として、最も注意を喚起するのが、ステイホームやリモートワークにより、家の中で座っている時間(座位時間)が確実に増えていることである。

このオーストラリアでの研究は、2012年に発表されたものだが、1日の座位時間の合計が8時間以上だと、座位時間が4時間未満の人に比べて、死亡率が15%高く、11時間以上だと40%もリスクが高いことを示している。

この調査結果をはじめとして、座位時間が長いことが、死亡リスクと関連することが世界的に注目されるようになり「座りっぱなしは、喫煙と同じ」というメッセージが広がった。

その後も「座位時間の長さと死亡率の高さが関連する」エビデンスとなる研究が数多く発表されており、さらに興味深いのは、その調査結果が、身体活動レベル、BMI、喫煙状況、教育歴、飲酒状況、生活習慣病疾患保有数、就労状況、抑うつ、転倒歴などの影響を統計学的に調整したうえで出されている点である。
つまり、身体活動量が十分にあっても、BMIが適切でも、座位時間が長ければ、死亡リスクも高い。たとえ週に数回フィットネスクラブで運動をしていても、1日8時間以上の座位時間があると、死亡リスクは相殺されないということだ。

1日8時間以上の座位時間による死亡リスクを低減するための身体活動量の目安について検討した研究では、毎日60~75分の中等度以上の身体活動があれば、有意にリスクが低減されることが示されている。

こうした調査結果から、フィットネスクラブに通っている人も、通っていない人も、共通して、日常の座位時間をこまめに中断して動く習慣を採り入れることが、健康二次被害予防にも有効であると言える。

テレビ視聴時間が長いと、フレイルになりやすい

テレビの視聴時間とフレイルのリスク増加の間にも有意な関係が見られている。

同じ座位でのスクリーン時間でも、テレビを観るという受動的な行動よりも、PCで自発的な情報収集がなされるほうが、認知機能の低下は見られなかったという研究結果や、インターネットを通じた顔が見えるビデオ通話は、人とのかかわりを持たない高齢者に比べて、鬱発症を抑える効果が高いという調査結果もある。

ステイホームでも、テレビ以外の楽しみを見つけることが健康二次被害予防に繋がることが分かる。

座位時間が長いと、疲労感が増大し、やる気がなくなる

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