掲載日:2021年10月26日  更新:2021年10月26日

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【スポーツ医科学の視点から】「免疫機能低下」による健康二次被害と、その予防

スポーツ医学博士の清水和弘さんは、(独)日本スポーツ振興センター・ハイパフォーマンススポーツセンターにて、免疫機能の観点におけるコンディショニングに関する研究を行っている。
コロナ禍の運動不足により免疫機能が低下することで、風邪なども含めたウイルス性の病気にかかりやすくなる可能性を指摘。これまでの研究から、運動・栄養・休養という健康の3要素と、免疫機能の関係について、エビデンスとともに紹介する。

スポーツ医学博士 清水 和弘 さん

清水さんは、コロナ禍で注目が高まっている「免疫機能」について、研究の現場で注目されているSIgA(分泌型免疫グロブリンA)について説明する。

「免疫、つまり病気から身体を守る機能は、2段階に分かれていて、第1段階として粘膜免疫(局所免疫)があり、第2段階に全身免疫があります。粘膜免疫は、粘膜において病原体の侵入をブロックするバリア機能であり、全身免疫は侵入後の病原体を発熱や下痢などで抵抗・排除する機能です。アスリートの免疫機能の研究では、できるだけ発熱や下痢など体調が崩れる前に、病原体をいかに体に入れないかを重視します。そのため、第1段階の粘膜免疫で、病原体の体内侵入をブロックするSIgAに着目した研究が進んでいます」

このSIgAについては、免疫の研究を進めるうえで、清水さん自身も簡易測定器を開発し、オリンピック選手のサポートを行っていた。製品化にチャレンジしたが、同時期にイギリスで簡易測定器が開発された。この英国SOMA社のCUBE Readerが測定器としてスポーツ現場で使われ始めており、唾液を採取して測定器にかけることで、簡単にほぼリアルタイムでのSIgAが測定できることから、免疫機能の一つの指標として研究が進み、エビデンスが増えてきているという。

運動と免疫機能の関係から、清水さんがまず注目するのが、「歩行量別に見た、唾液SIgA分泌量の違い」である。

70歳台の高齢者における1日の歩数と、唾液SIgA分泌量を2週間にわたってモニタリングしたところ、1日の平均歩数が3,000歩のグループと、1日7,000歩のグループでは、SIgA分泌量に有意な差が見られ、歩数が多いグループのほうが、SIgA分泌量も多い結果となった。歩数が多いグループでは、中等度(3-5メッツ)の活動量になっている時間も長く、1日の歩数が多い人は、歩くのが早い、または一定以上の強度での運動を習慣化していることが示唆された。

このことから、まず1日の歩数を増やすことが免疫機能向上に繋がるということが言える(図1)。
※10,000歩以上の群の免疫機能については今後検討が必要とのこと。
 

また、自重負荷の運動や、簡単なエクササイズだけでも、運動を継続している人のほうがSIgAが高いことが分かっており、低~中等度の運動を継続することで、免疫機能を向上できるといえる。トレーニングを長期間継続している人のほうが、免疫機能が高いという研究結果もある(図2)。

一方で、清水さんが現在研究対象としているトップアスリートは、運動習慣があるものの、免疫機能が低下しやすい。運動強度が高すぎると、運動をほとんどしない人よりも、免疫機能は低下する。そのため、免疫機能のリカバ
リーについての研究も進んできており、一般生活者にも応用できる知見も多い。

そこで得られたエビデンスとして「運動習慣がある人は、激しい運動後の免疫機能の回復も早い」ということがある。アスリートの場合は、基本的な体力が高いことから、最大心拍数の60%で90分運動しても免疫機能の低下は見られないものの、70%で120分の運動を継続すると、免疫機能の低下が見られ、その後2時間程度で回復する。運動習慣がない人が、75%の運動を1時間以上行った場合、回復に1日以上かかる場合もある。

この免疫が低下している間の感染予防として重要なことは、コロナ禍で浸透した、マスクの着用や、手指の消毒、目や鼻、口の粘膜を触休養と免疫機能の関係については、睡眠効率(寝床に入っていた時間のうち、睡眠状態にある時間の割合)が高いと、SIgA分泌量が 高いことなどが確認されている。
つまり、日常生活でも、寝つきと寝起きの良さで、免疫機能の状態が確認でき、質の高い睡眠がとれる日常生活のルーティンをつくっていくことらないようにするなど、病原体が粘膜から侵入することを防ぐことだ。運動習慣がある人でも、運動直後の基本的な感染予防が重要であることに変わりはない。

また、追記できることとして、ヒトの免疫には、「自然免疫」と「獲得免疫」があり、「自然免疫」は生まれつき備わっている仕組みであり、非自己と認識した病原体にいち早く反応するものであるのに対して、「獲得免疫」は過去に出会ったことがある種類の病原体の情報を記憶して再度侵入した際に効果的に反応するもので、ワクチンは獲得免疫の仕組みを利
用したものである。

SIgAは、この「獲得免疫」に類されるが、病原体の株が変異しても、病原体構造の似た部分に反応してブロックする機能があることがインフルエンザウイルスで確認されている。
つまり、新型コロナウイルスについても、今後の変異株も含めて、SIgAが病原体の侵入を防いでくれる可能性があると考えられる。「自然免疫」に関与するNK細胞活性も、筋トレなどで高まるという調査結果もあり、運動を継続している人は、コロナ禍においても高い免疫機能で感染を防いでいると考えることができる。

免疫機能のリカバリーの分野では、栄養と休養についての研究も多い。清水さんの研究では、適度な運動に加えて乳酸菌を毎日摂取すると、運動のみの場合に比べてSIgAがより高まるという示唆が得られている。
また、SIgAの生成に関わる、ビタミンAやビタミンDの摂取も、免疫機能の向上に有効であることが分かってきている。

休養と免疫機能の関係については、睡眠効率(寝床に入っていた時間のうち、睡眠状態にある時間の割合)が高いと、SIgA分泌量が 高いことなどが確認されている。
つまり、日常生活でも、寝つきと寝起きの良さで、免疫機能の状態が確認でき、質の高い睡眠がとれる日常生活のルーティンをつくっていくことは、免疫機能を高く保つうえで有効であると言える。
その他、副交感神経が優位になることでSIgAが高まることが示唆されており、鍼やマッサージ、アロマなどによるアプローチの有効性も確認されてきている。

フィットネス指導者として、健康の3要素を含めたライフスタイルのアドバイスを

清水さんは、こうした知見が増えてきていることで、フィットネス指導者にとっても、フィットネスの付加価値を提供できるチャンスが広がっているとアドバイスする。

低強度の運動でも、運動を継続することで、免疫機能を高めることができ、栄養や睡眠のライフスタイルの知見に基づいたアドバイスをすることで、運動継続による免疫機能亢進効果を高めることができると伝えることができます。人々の、感染予防や免疫機能への意識が高まっている今、フィットネスを継続することの価値を啓発できる機会が広がっていると言えるのです。

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