掲載日:2023年06月16日  更新:2023年06月09日

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キッズ・ジュニアのスポーツウェルネス事情

キッズ・ジュニアのスポーツウェルネス事情

キッズ・ジュニアの体力問題は深刻化親の運動リテラシーが、子どものウェルビーイングをつくる

筑波大学スポーツ環境デザインR&Dプロジェクト室研究員/いわきFC育成アドバイザーの小俣よしのぶさんは、「日本の小中学生の体力問題は、深刻な状況にある」と警鐘を鳴らす。ジュニアアスリートのタレント発掘育成問題にも関わる視点から、日本のキッズ・ジュニア世代のスポーツウェルネス環境の課題について、話を訊いた。

小俣よしのぶさん

筑波大学スポーツ環境デザイン R&D プロジェクト室
Waisports ジャパン研究員
いわき FC 育成
アドバイザードームアスリートハウスアカデミーアドバイザー
一般社団法人日本スポーツ推進機構(NSPA)アドバイザー

小中学生の体力低下は深刻化。子どもの身体の老化現象進む

スクリーンタイムの増加とコロナ禍による運動不足で、子どもの老化現象が深刻化している

 スポーツ庁は、小中学生を対象とした令和 4年度(2022年度)の「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」(全国体力テスト)の結果を公表した。男女小中学生とも体力合計点が過去10年との比較で最低を更新し、深刻な状況となっている。その要因について、小俣さんはこう話す。「子どもたちの体力は、2018年以降低下し続けていますが、コロナ禍の影響が大きく出た 2021年の体力テストの結果から、さらに悪化している状況です。2018年からの体力低下の要因として、①スクリーンタイムの増加と、1日の総運動時間数の減少、②運動量や運動機会の減少が要因と考えられる肥満傾向児の増加、③子どもロコモティブシンドロームがさらに進んでいること、などが挙げられます。ゲームやスマートフォンの浸透で、子どもの運動離れが進んでいたところに、2020年からのコロナ禍で、外出する機会が減り、マスクを着用した生活が長期化することで、運動器機能と体力低下が深刻化しています」

令和4年度(2022年度)「全国体力・運動能力、運動習慣等調査」(全国体力テスト)の結果

未就学児の環境はさらに悪化。親子一緒に、外で遊ぶ機会づくりを

 未就学児については、さらに環境が悪化していると小俣さんは指摘する。共働き世帯が増えて、保育園に長時間預けられる子どもが増えている。小中学校では、体育の授業が戻ってきていることで、運動の機会も一定量確保できるものの、多くの保育園では、園庭や運動スペースがないため、外で運動する機会が少ないのが現状だ。さらに家の近くに友だちがいない子も多く、遊ぶ機会もない。
 小俣さんは、子どもの体力回復には「外で遊ぶことが何より重要」と強調する。「オンラインの運動指導サービスが受けられる環境も広がりましたが、アウトドアで走りまわることに勝るものはありません。特に小さなお子さんは、親と一緒に遊ぶことが一番楽しく感じるので、親子で一緒に運動することで、子どもが運動好きになります。休日など親子で一緒にいられる時間には、とにかく外に出て、一緒に遊ぶことが大切です」
 マスクについても、一日でも早くとることを勧めている。「マスクをしたままの運動は疲れやすく、運動したくなくなってしまいます。マスクをしていると呼吸がしづらく苦しくなり、呼吸が浅くなったりします。充分な酸素を取り込むことができないと酸素不足になり、ぼーっとしたり、疲れやすくなります」と説明する。

特に未就学児は、親子で外で遊ぶことが、何よりの子どもの体力向上策となる

ジュニアアスリートは、フィジカル重視の身体づくりを

 トップアスリートの世界では、フィジカルの強化に、改めて焦点が当てられ始めており、ジュニアアスリートの育成でも、フィジカルがさらに重視されていく方向性にある。「先日のWBCでも、日本人選手の体格は、世界の選手たちに引けを取らず、プレースタイルもダイナミックになっています。欧州のサッカー選手のスカウトでも、まず重視するのが、体格やフィジカルの強さになってきています。日本サッカー協会も、フィジカルの定義を改めて明文化し『自分の持っているスキルやプレーをどんな状況でも最大に発揮できる基礎』として、今後フィジカル重視の育成が進められていきます」

トップアスリートの世界では、フィジカルが最重要視されている

 ジュニア選手のフィジカルを強化するうえで、成長期までは、自重負荷のレジスタンストレーニングを中心にし、バランスのいい食事と充分な睡眠をとり、成長ホルモンの作用を引き出して身長を伸ばし、身長に見合った体重にしていくことが肝要。そのうえで、身長が伸び終わる頃からバーベルなどの器具を使ったウェイトトレーニングで負荷を加え、フィジカルを高めていく。
 また、近年ファンクショナルトレーニングなどに代表されるような、身体機能を高めたり、競技的な動きを模したフィジカルトレーニングが主流になり、フィジカルトレーニングのエクササイズ自体が複雑な運動になっている。従来の筋トレのように関節の伸展屈曲を反復するだけの単純な動きとは異なり、複雑な身体の動きや、それを感じる運動感覚が求められるようになってきた。
 このような傾向から成人になって専門的なフィジカルトレーニングを行ううえでも、小中学生のうちに、さまざまなエクササイズや運動に触れて身体の意識を高めることと、基本的なトレーニングのフォームを習得しておくことを勧めている。「欧州のサッカークラブの育成では、ジュニアアスリートのフィジカルトレーニングにもクイックリフト(オリンピックリフト)が導入されています。ただし、フォーム習得が主な目的で、木の棒などをバーベル代わりにして、フォームとリフトの感覚を養います。それによってこれらのリフトを本格的に行える年齢になった時にフォーム習得に時間をかけることなく、効果的にクイックリフト導入を図れるようになります」

トレーニングのフォーム習得も、キッズ・ジュニア時代に行っておくと、将来的にパワートレーニングを効果的に行えることになる

オリンピックリフティングは、すべての競技のフィジカルトレーニングに採り入れられるようになっている

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